採用活動のPDCAサイクルを回す上で欠かすことのできない「歩留まり」の考え方を理解するための情報、採用歩留まり率の改善に向けた具体的な取り組みができるためのノウハウをご紹介します。
目次
採用歩留まりとは
「歩留まり」は製造現場で使われる用語です。原材料の投入量に対して、最終的に得られた生産数量の割合を意味します(歩留まりを百分率で示した数値が「歩留まり率」です)。
営業活動でも、顧客リスト数→リード数→商談数→受注数という具合に営業活動のフェーズ毎の歩留まりを見える化することで、ボトルネック部分の歩留まりの改善施策を打つことが可能になります。
例えば、リード獲得後商談化率(リード数→商談数の歩留まり率)がボトルネックであると分析される場合、以下のような歩留まり改善施策が考えられます。
<歩留まり改善施策の例>
・リード獲得手段の見直し
・リード獲得時に取得する顧客情報の見直し
・リード獲得後から商談化アプローチをするまでのリードタイムの短縮
・商談化アプローチをする際のトークスクリプトの見直し
・商談化アプローチの自動化
これと同様のことが採用活動にも言えます。
リード数(母集団)→選考応募者数→一次選考通過者数→二次選考通過者数→三次選考通過者数→最終選考通過者数(内定者数)→内定承諾者数という具合に、採用活動のフェーズ毎の歩留まりを見える化することで、適切な歩留まり改善施策を打つことが可能です。
この採用活動における歩留まりを「採用歩留まり」と言います。
採用歩留まり率の指標と計算方法
1. 選考応募率
選考応募率は獲得したリード(母集団)に占める選考応募者の割合を意味します。
<計算方法>
選考応募率 = 選考応募者数 ÷ リード数(母集団) × 100
新卒採用では、
・インターンシップやOB訪問で早期接触した学生
・就活サイト経由でプレエントリーしている学生
・就活イベントで出会った学生
等の様々な集客チャネル経由のリード(母集団)が存在する中で、各集客チャネルの選考応募率を見える化させることで応募獲得単価を評価し、見直しを図ることが重要です。
ちなみに、中途採用の場合は新卒採用のような一括採用でないケースが多い(特定ポジションの少人数採用が多い)ので、限られた期間内に選考応募者予備軍をプールする母集団形成の考え方は重要視されていなかったのは昔の話。
現在は、人材獲得競争の激化を背景にした「カジュアル面談」や「副業マッチング」のサービス普及に伴い、中途採用における母集団形成活動(転職潜在層のリード獲得)の必要性が高まっています。
2. 選考通過率
選考通過率は各選考フェーズに進んだ人数に占める選考通過者の割合を意味します。
<計算方法>
一次選考通過率 = 一次選考通過者数 ÷ 一次選考応募者数 × 100
二次選考通過率 = 二次選考通過者数 ÷ 二次選考応募者数 × 100
三次選考通過率 = 三次選考通過者数 ÷ 三次選考応募者数 × 100
最終選考通過率 = 最終選考通過者数 ÷ 最終選考応募者数 × 100
選考通過率は「フェーズ単位」で見るのに加えて「面接官単位」で見ることを推奨します。
構造化面接(決められた評価基準と質問項目の元にマニュアル通りに面接を進める手法)を実施しない限りは面接官による評価のばらつきは避けられないため、具体的にどの程度のばらつきが生じているのかを見える化する上で「面接官単位」の選考通過率を役立てることができます。
3. 選考辞退率
選考辞退率は各選考フェーズに進んだ人数に占める選考前辞退者の割合を意味します。
<計算方法>
一次選考辞退率 = 一次選考前辞退者数 ÷ 一次選考応募者数 × 100
二次選考辞退率 = 二次選考前辞退者数 ÷ 二次選考応募者数 × 100
三次選考辞退率 = 三次選考前辞退者数 ÷ 三次選考応募者数 × 100
最終選考辞退率 = 最終選考前辞退者数 ÷ 最終選考応募者数 × 100
選考辞退率も「フェーズ単位」と「面接官単位」で見ることを推奨します。
候補者(選考フェーズにある求職者)の選考辞退理由は様々に考えられますが、面接官の態度が悪かった、面接官に魅力を感じられなかった、面接官が自分に興味がないように感じられた、等の面接官の悪印象を辞退理由とするケースは少なくありません。
4. 内定承諾率(内定辞退率)
内定承諾率は内定者に占める内定者承諾者の割合を意味します。
<計算方法>
内定承諾率 = 内定承諾者数 ÷ 内定者数 × 100
内定承諾率は企業の採用力を測る上での重要指標になります。採用力とは、
・募集ポジションの魅力(企業の将来性・仕事内容のやりがい・待遇の良さ)
・企業の知名度や採用ブランド力(自社を魅力的にPRする力)
・「見極め」と「口説き」を高いレベルでバランスさせる面接力
等の企業の採用活動における総合力を表す言葉です。この意味において「内定後のコミュニケーションを改善するだけでは内定承諾率の改善には中々繋がらない」と言われるのは当然であると考えられます。
ちなみに、内定辞退率は「100 - 内定承諾率」の計算式にも表すことができます。内定承諾率と同じ用途に活用可能です。
<採用歩留まり率の指標と計算方法まとめ>
採用歩留まり率の改善ノウハウ
1. 選考応募率(リード数→選考応募者数の歩留まり率)を改善する取り組み
集客チャネルの見直し
様々な集客チャネル経由のリード(母集団)が存在する中で、各集客チャネルの選考応募率を見える化させることで応募獲得単価を評価し、見直しを図ることが重要です。
<改善の取り組み例>
- 大手の求人サイトの利用を止めて、採用ターゲットの割合が多い求人サイトの利用を進める(同一カテゴリの集客チャネルを変えてみる)
- 評判の良い新サービスを試しに利用する(これまで試したことのない新カテゴリの集客チャネルを利用する)
- 人材紹介会社の整理をする(選考応募率(※)の低い人材紹介会社との契約は更新せず、その代わりとなる新しい人材紹介会社を探す)
※「リード数=求人紹介人数」とした場合の選考応募率を算出する。
リマインド活動
母集団を選考応募に上手く繋げるコツは「記憶に留めてもらう活動」にあります。
求職者は複数企業の採用活動に同時にエントリーする中で過去に接点を持った企業のことを忘れてしまいます。興味ある企業・志望度の高い企業であれば忘れてしまうようなことは起こり得ませんが、その他多数の企業群に関しては時間経過とともに記憶が曖昧になってしまいます(特に、スケジュール管理に慣れていない学生の場合はこの傾向が顕著に出ます)。
この選考応募率の歩留まりを改善するためには、いかに自社のことを覚えておいてもらうか、または、思い出してもらうかが勝負です。
<改善の取り組み例>
- サマーインターンシップ参加学生と秋冬の期間に接点を持つイベントを企画する(大掛かりなイベントである必要はないのでOB訪問や人事との個別面談でも可)
- インターンシップや会社説明会を実施する際は、エントリー者に対するリマインドを徹底する(少なくともリマインドメール送信を2回することを推奨)
2. 選考通過率(選考応募者数→選考通過者数の歩留まり率)を改善する取り組み
「公正公平な選考」の実現に向けた改善活動
選考通過率(選考応募者数→選考通過者数の歩留まり率)は候補者の能力次第なので企業側がコントロールするべきではないという意見は確かにその通りなのですが、それは「公正公平な選考」ができていることが前提です。
つまり、選考で不公平さが生じている可能性を考慮した上での「公正公平な選考」の実現に向けた改善は必要なことであり、結果的に選考通過率が変化することは好ましいことです。
たとえ、選考辞退率が悪化することになっても、それが本来あるべき選考であるという意味で「選考通過率は改善した」と判断できます。
<改善の取り組み例>
- エントリーシート選考を廃止する(就活サイトに公開されているESの過去問と回答例を真似ることでそれなりのESを作れてしまう状況を踏まえると、ES選考自体を廃止することに一定の合理性がある)
- 面接官による評価のばらつきを無くすために構造化面接(決められた評価基準と質問項目の元にマニュアル通りに面接を進める手法)を導入する
- 面接官単位の選考通過率を算出し、平均値から大きく外れる面接官の面接内容を改善する
3. 選考辞退率(選考通過者数→次の選考応募者数の歩留まり率)を改善する取り組み
選考スピードの最適化
選考辞退が起きる要因の一つは「選考スピードの遅さ」にあります。
選考結果が出るまでに時間がかかる、次回選考の日程調整に時間がかかる、次回選考の日程がかなり先になる、等の理由で他社の選考スピードと足並みが揃わずに選考辞退されてしまうことを防ぐ必要があります。
<改善の取り組み例>
- 選考実施日から3日以内に合否を判定する。選考結果と次回選考日程調整の連絡は一回のメールにまとめる。次回選考日程調整連絡では企業側から幅広い候補日程を提示する(少ないメールのやり取りで日程確定させる工夫をする)
- 候補者への連絡漏れ、日程調整のミス(ダブルブッキング)を減らす目的、かつ、一連の業務を効率化する目的で採用管理システムを活用する
- 候補者の活動状況に柔軟に対応できる体制を整えておく(条件付きで選考フローの短縮をできるようにしておく)
面接官アサイン・トレーニング
面接官の態度が悪かった、面接官に魅力を感じられなかった、面接官が自分に興味がないように感じられた、等の面接官の悪印象による選考辞退は企業にとって大きな機会損失です。
また、面接官には候補者の見極め(評価)をする一方で、候補者の口説き(動機付け)をする役割もあることを考えると、面接官としての役割をきちんと果たせるような面接官のアサインやトレーニングが求められます。
<改善の取り組み例>
- 面接の基礎基本を学ぶ研修を実施する(面接官が聞いてはいけない質問についての知識をインプットする)
- 面接官の人選を見直す(面接官単位で選考辞退率を算出し、数値の悪い面接官を変更する)
- 面接官が効果的な口説き(動機付け)をできるようにする観点で、候補者の企業選びの軸や志向性に関する情報をアンケート等で事前取得する
4. 内定承諾率(内定者数→内定承諾者数の歩留まり率)を改善する取り組み
内定者に寄り添ったコミュニケーション
内定承諾率には企業の採用力が現れるため、内定後のコミュニケーション改善だけでは内定承諾率の改善には中々繋がらないと言われますが、改善の打ち手がないわけではありません。
考えられる打ち手は「内定者に寄り添ったコミュニケーション」です。
<改善の取り組み例>
- 内定承諾の回答期限を柔軟に対応する(内定者にとって、自社よりも志望度の高い他社の選考結果が出るまで内定承諾の回答期限を延長する)
- オファー面談を動機付けの場としても活用する(オファー内容を伝えるだけでなく、どういった点が評価されたのか、どんな活躍を期待しているのかを伝える)
- 「候補者が内定に至った場合に内定承諾を出来る状態」で最終選考に進んでもらう(最終面接前に動機付け目的の個別面談を実施する)
まとめ
今回は採用歩留まり率の改善ノウハウをご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか?
現実では、選考フロー全体を俯瞰しながら、どの歩留まり率を改善するのかを総合的に検討する必要があります。そのノウハウは下記の記事を参考にしていただければと思います。
・参考:新卒採用の成功を引き寄せる「選考フロー起点」の採用活動振り返りメソッド|HRアナリスト
採用歩留まり率の改善に役立つサービスのご案内
本稿の締め括りとして、辞退率の改善(選考辞退防止)に役立つサービス、面接に特化したクラウド型人材分析ツール「HRアナリスト」をご紹介します。
HRアナリスト
HRアナリストは、面接に特化したクラウド型人材分析ツールです。現場の面接官の面接力をアップさせ、候補者満足度を上げることで内定辞退や選考辞退を防ぎます。
~母集団に頼った採用の限界を突破する~
採用目標を達成する為にどの企業もまず対策をするのが、求人媒体などの見直しや、媒体の数を増やすことです。
流入数を増やせば採用人数は増えるかもしれませんが、それなりのコストが必要になります。また、本当に入社してほしい人の採用には繋がりません。
HRアナリストではそんな従来の採用手法を変え、候補者満足度を上げることで選考辞退や内定辞退を無くす手法を提案できます。
活用STEP1:アンケートの送付
必要な情報をアップロード(CSVもしくは手動入力)するだけで、候補者にカンタンにアンケートを発行することができます。また、カスタムアンケートを設定することで御社独自のアンケートを冒頭に追加することも可能です。
ダイレクトリクルーティング経由で面談を実施した候補者に、その後の選考に進んでもらうにあたって、実際の面接の前にメールやメッセージツールでアンケートのURLを送付することで簡単に回答してもらうことが可能です。
活用STEP2:候補者の分析(分析シートの発行)
候補者が回答したアンケートを元に8つのタイプに分け、その候補者にあった
「面接に関するアドバイス」
「動機づけのポイント」
を明確にアドバイスいたします(HRアナリストが分析シートを発行します)。
HRアナリストが発行する分析シートには、候補者の満足度を上げながら面接をスムーズに行う手法を記載しています。この分析シートを活用しながら面接を行うことで熟練の面接官と同じような面接が可能になります。
活用STEP3:面接官のアサイン
分析結果をもとに、その候補者に最も適した面接官をアサインすることができます。
※面接官を担当する社員が事前にアンケートに回答する必要があります。
活用STEP4:次の面接官への申し送り
事前に共有したいことなどを次の面接官へ申し送りできます。
・HRアナリストについてのお問い合わせはこちら
>> CONTACT | HRアナリスト (hr-analyst.com)
著:池田信人 編:パーソルキャリア株式会社