候補者体験(CX:Candidate Experience)施策の実践ガイド

2020/12/25

候補者体験(CX:Candidate Experience)とは「候補者が企業との接点で得られる体験」を意味し、良質な候補者体験(CX)を提供することで候補者の満足度を高めることが、応募意欲や志望度にプラスに作用すると言われています。

しかし、言うは易く行うは難し。

候補者体験(CX)を提供することの有用性には理解を示しつつも、いざ候補者体験(CX)施策を実践するとなると躊躇してしまうのではないでしょうか?

そこで本稿では、候補者体験(CX)施策の実践の手助けになる知識をお伝えします。

目次

1. はじめに

良質な候補者体験(CX)の提供は、全ての採用フェーズ(募集・選考・内定)における候補者接点で候補者の満足度を高めることで実現されます。

ゆえに、

・求人票を分かりやすい内容に修正
・採用サイトに社員インタビュー記事を追加
・面接実施から選考結果連絡までの期間短縮

などの小さなアクションも良質な候補者体験(CX)を提供していると言えます。

“神は細部に宿る” のは候補者体験(CX)も同じであり、小さなアクションの積み重ねは必要不可欠ですが、細部にこだわるのは大枠を仕上げてこそ。

本稿では、既存の採用施策と同じテーブルで比較検討できることを重視して、ある程度の大きなアクションを候補者体験(CX)施策と定義します。

2. 候補者体験(CX)施策の効能

候補者体験(CX)施策は、自社に対する興味関心や志望度を向上させる特効薬ではなく、自社に対する興味関心や志望度が高まらない症状を改善する効能(働き)があるに過ぎません。

(風邪薬が、風邪を治療する特効薬ではなく、風邪の諸症状を緩和する効能があるに過ぎないのと同じ理屈です)

闇雲に候補者体験(CX)施策に飛びつくのではなく、まずは、候補者体験(CX)施策にはどんな効能があるのかを知りること。そして、自社にとって必要な効能がある候補者体験(CX)施策を選ぶことが大切です。

効能1:企業理解の促進

企業理解とは、候補者の企業情報(事業内容・仕事内容・組織風土・事業戦略・事業の課題や展望など)の理解度です。

候補者の企業理解は、企業の情報公開の度合いに比例すると考えられますが、候補者が満足するレベルの企業情報(事業の課題や展望、仕事内容の詳細、組織風土のイメージなど)を開示できている企業は多くはありません。

つまり、候補者は企業理解が不足している状態で企業への応募意思や志望度を判断しているケースが多いと推察できます。

ゆえに、企業は『企業理解を促進する効能』がある候補者体験(CX)施策を通じて応募者数の増加や選考辞退率の改善効果を期待できます。

効能2:自己理解の促進

自己理解とは、候補者自身のこと(キャリア観・やりたいことなど)の理解度です。

候補者の自己理解は、候補者自身の自己分析に委ねられ、多くの場合、仕事を通じた自己分析によって自己理解を深めていきます。そんな中、仕事経験のない学生・仕事経験の浅い第二新卒層の候補者は自己分析に邁進するも(分析対象となる仕事の経験不足により)自己理解を深めることに苦戦する傾向にあります。

ゆえに、企業は『自己理解を促進する効能』がある候補者体験(CX)施策を通じて候補者自身の本質的なキャリア観・やりたいことの発見を支援することができます。

その結果、「あなたの●●●(本質的なキャリア観・やりたいこと)は、当社であればこのように実現できます」という具合に、候補者自身の本質的なキャリア観・やりたいことの文脈で自社の魅力訴求をしやすくなり、候補者の志望度を向上させる効果を期待できます。

効能3:期待値理解の促進

期待値理解とは、候補者の企業からの期待値(選考の評価・初めに任せたい仕事と期待する成果・中長期の成長期待など)の理解度です。

候補者の期待値理解は、企業のアクションに委ねられています。採用活動の中で候補者一人ひとりに期待値を伝えていくことは簡単ではありませんが、企業から期待されていることを知って嫌な気持ちになる候補者はいません。また、自分のことを求められている実感は入社の決め手にもなり得ます。

ゆえに、企業は『期待値理解を促進する効能』がある候補者体験(CX)施策を通じて候補者の志望度を向上させる効果を期待できます。

3. 候補者体験(CX)施策一覧

ここからは、募集・選考・内定の採用フェーズ毎の候補者体験(CX)施策を紹介します。

募集フェーズの候補者体験(CX)施策

募集フェーズには様々な採用施策が有り、集めるだけの目的であれば既存の採用施策で十分かも知れませんが、候補者体験(CX)施策には別の目的も付加することが可能です。

①オウンドメディア
オウンドメディアは『企業理解を促進する効能』がある候補者体験(CX)施策です。編集チームを作り、社内の様々な部署を巻き込みながら経営・事業・仕事・組織の情報を発信していく継続的な活動を通じて採用ブランドを高めていくことができます。

メディアのテーマや企画を工夫をすることで、既存の採用施策ではリーチすることが難しい転職潜在層へのアプローチも可能です。

<参考情報>
ナイルについて読んでほしい記事まとめ|note

企業理念・経営者の考え・事業概要・組織づくり・事業部毎の情報・企業文化など、多種多様な情報が惜しみなく言語化されています。

②採用ピッチ資料
採用ピッチ資料は『企業理解を促進する効能』がある候補者体験(CX)施策です。企業が伝えたい情報だけではなく、候補者が知りたい情報(事業や組織の課題、給料テーブルや昇級実績など)をどれだけ発信できるかがポイントになります。

特定職種向けの資料に作り込むことでターゲット採用の求人票としての活用も可能です。

<参考情報>
SmartHR会社紹介資料 / We are hiring- Speaker Deck

100万回以上の閲覧数を誇る、日本で最も読まれているであろう採用ピッチ資料です。資料の構成から1枚1枚の資料の見せ方に至るまで、丁寧に作り込まれています。

ベイジの会社紹介- Speaker Deck

「何をやっている会社なのか?」という点へのこだわりを感じられる採用ピッチ資料です。

選考フェーズの候補者体験(CX)施策

性格や価値観が異なる一人ひとりの候補者に対して良質な候補者体験(CX)を提供するための基本は『個別対応』です。

この意味において、1対1のコミュニケーションを基本とする選考フェーズ(面接選考)の候補者体験(CX)施策は、候補者体験(CX)のポテンシャルを最大限に発揮することが可能です。

③面談コミュニケーション
面談コミュニケーションは『企業理解・自己理解・期待値理解を促進する効能』がある汎用性の高い候補者体験(CX)施策です。

面談前に候補者アンケートを実施することで適切な候補者体験(CX)施策の当たりをつけることができます。

・企業理解を促進したい場合
面談時に個別の企業説明(企業理解を促進するための面談)をすることで、候補者の志望度向上を狙うことができます。

自社のことをどのように理解しているのかを候補者の言葉で語ってもらい、不足している企業情報を伝えます。候補者の企業理解に誤解があると感じられる場合は、その誤解を払拭することも大切です。

・自己理解を促進したい場合
面談時にキャリア相談(自己理解を促進するための面談)をすることで、候補者の志望度向上を狙うことができます。

自己開示をしてもらう上では、候補者が話をしやすい属性・立場の社員をアサインする配慮が必要です。

・期待値理解を促進したい場合
面談時に期待値の調整(期待値理解を促進するための面談)をすることで、候補者の志望度向上を狙うことができます。

候補者のやりたいこと・挑戦したいこと・実現したいことをヒアリングしながら、それを踏まえて、候補者にやって欲しいこと・挑戦して欲しいこと・実現して欲しいことを伝えます。

<参考情報>
有意義な応募者体験を提供する|Google re:Work – ガイド
Google社が作成した、選考フェーズで有意義な候補者体験(CX)を提供するためのガイドです。面接の基本的ノウハウが体系的かつ簡潔にまとめられています。

最新のテクノロジーで企業の採用活動を支援する「HRアナリスト」
専用の候補者アンケートを実施すると、そのアンケート結果を分析し、適切な採用設計、面談・面接方針、コミュニケーション方針、志望度を上げるトピック、自社のアピールポイントなどの具体的な採用手法や、相性の良い面接官・リクルーターの選出といった相性分析などの採用戦術を提案する採用支援ツールです。

内定フェーズの候補者体験(CX)施策

1対1のコミュニケーションを基本とする内定フェーズの候補者体験(CX)施策も、候補者体験(CX)のポテンシャルを最大限に発揮することが可能です。

ただ、候補者を『口説く』観点においては選考フェーズで決着が着くことが多いため、内定フェーズの対策の優先度は高くありません。

④オファー面談
オファー面談は『期待値理解を促進する効能』がある候補者体験(CX)施策です。過去の面接官の評価コメントをフィードバックする、現場責任者に同席してもらい未来の話をするなどの候補者への期待値を丁寧に伝えることを推奨します。

4. 候補者体験(CX)施策のFAQ

候補者体験(CX)施策全般の質問

Q. 採用フェーズ全体を通じて全方位的にありとあらゆる候補者体験(CX)施策を実行することで、一人ひとりの候補者の満足度を高めることが重要なのでは?

A. 理想的にはその通りですが、現実には予算と時間の制約があります。優先度の高い採用課題を選び、その改善に貢献する採用施策に集中すると良いでしょう。無理に候補者体験(CX)施策にこだわる必要もありません。

ただ、本稿は候補者体験(CX:Candidate Experience)施策の実践ガイドと銘打っているので、候補者体験(CX)施策の中で優先度の高いものを選ぶならば下記の理由から面接選考(選考フェーズ)の候補者体験(CX)施策を挙げます。

<理由>

  1. 企業の採用施策が『集める』と『見極め』に集中する一方で『口説き』の対策が手薄になるケースが多い
  2. 売り手市場では、候補者を選ぶこと(見極め)と候補者から選ばれること(口説き)を両立させる面接が求められている
  3. 事実、選考の内容は候補者の志望度に大きく作用する(※)

※ 学生の就職活動において内定者の入社意欲が高まったタイミングは選考フェーズであるという調査結果があります。

“9月1日時点で内定を獲得している学生に、入社予定企業(複数内定獲得者は、現時点で最も入社志望度が高い企業) に対して、“この企業で働きたい” “働くのが楽しみ”など、入社意欲が高まったタイミングを聞いた。最も回答を集めたのは、「面接・試験段階」で37.2%だった”

参考:2018年3月卒業予定者の就職活動に関する学生調査(2017年9月1日状況)|株式会社アイデム 人と仕事研究所調査

オウンドメディアの質問

Q. オウンドメディアの運用は大変なので、あまり乗り気ではありませんが取り組むべきなのでしょうか?

A. オウンドメディアは生半可な気持ちで運用できるものではないので、今の状況であれば取り組まない方が良いと思います。また、費用対効果の観点では、まずは媒体掲載や人材紹介、イベント出展などの既存の集客施策に “徹底的” に取り組むことを推奨します。

その上で、もっと集客数を増やしたい場合、これまでリーチできなかった優秀層にアプローチしたい場合などの手段としてオウンドメディアを検討されることを推奨します。

採用ピッチ資料の質問

Q. 採用ピッチ資料では給料テーブルや昇級実績などの生々しい情報を開示している企業もあるようですが、そういったセンシティブな情報は出したくありません。出さなくても大丈夫でしょうか?

A. 出したくない情報は出せなくても大丈夫です。

ですが、今の時代は企業のクチコミ情報が就職・転職市場に流通しています。むしろ、そのクチコミ情報に含まれる嘘や虚飾を払拭する意図を含めて、採用ピッチ資料上で正しい情報を発信すると良いと思います。

ちなみに、エン・ジャパンの調査によると、転職活動でクチコミを見る求職者は89.1%に上り、その内、89.0%が「応募する前」のタイミングで一番クチコミを見ています。


参考:辞退の心理 [増補改訂版] 選考・内定辞退を減らす!すぐ真似できる16の手法も紹介!|人事のミカタ by エン・ジャパン

面談コミュニケーションの質問

Q. 面接中に面談をするのは難しくないですか?

A. 候補者を評価する面接と、候補者を口説く面談を同時に実施するには熟練が必要です。面談慣れしている採用担当者であれば問題ありませんが、面接官にアサインされた現場社員にとって、面接中に面談をするのは難しいものです。

しかしながら、事前に候補者アンケートを実施し、面談で何をどう話せば良いのかの準備があれば、現場社員でも面接中に面談をすることは十分に可能です。

オファー面談の質問

Q. 当社ではオファー面談を実施せずに、オファーレター(採用通知書)を郵送するだけで済ましています。特に内定承諾率にも問題はありません。それでもオファー面談は実施した方が良いのでしょうか?

A. オファー面談は候補者の期待値理解を促進する最大のチャンスなので、基本的にはオファー面談を実施することを推奨しますが、内定承諾率に課題感がないのであればオファー面談を実施する必要性は薄まります。

ですが、オファー面談は候補者体験(CX)の出口であり、従業員体験(EX)の入口です。候補者の入社後の活躍に焦点を当てるならば、オファー面談は実施することを推奨します。

5. まとめ

候補者体験(CX)というキーワードが流行するにつれて勘違いをされる方も増えているように思われますが、良質な候補者体験(CX)はどんな採用課題も解決できてしまう “魔法の杖” ではありません。

今回ご紹介した候補者体験(CX)施策で言えば、候補者の自社に対する興味関心や志望度が高まらない諸要因(企業理解不足・自己理解不足・期待値理解不足)を改善する効能があるに過ぎません。

ゆえに、候補者体験(CX)施策は、

・求人媒体
・スカウト
・人材紹介
・採用イベント
・リクルーター
・面接官トレーニング
・採用ツール

などの既存の採用施策と同列であることを理解し、その上で、自社の採用課題解決に資する施策を選択されることを推奨します。

著:池田信人 編:パーソルキャリア株式会社

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