今、採用選考における面接官の役割は高度化する流れにあります。
面接官の基本的な役割は見極め(評価)です。目の前の候補者が採用要件を満足する人物なのかをしっかりと見極めること。それこそが面接官の一義的な役割であることは、これまでも、これからも変わることはありません。
その上で、近年では口説き(動機付け)も面接官の役割として期待されています。
この背景には、採用マーケットにおける売り手と買い手の需給バランスの問題があることは確かです。特に、企業各社が採用ターゲットに掲げるレベルの優秀人材は常に需要過多の状態にあります。人材獲得競争が過熱し続ける状況において、候補者接点を担う面接官が優秀人材を口説く役割を背負っています。
また、インターネットの発展に伴い、企業と求職者間の情報の非対称性が崩れつつある状況も無視できません。求職者は企業が発信する情報を鵜呑みにせずに口コミサイトやSNSで企業の評判情報をリサーチするようになりました。
その結果、募集広告・求人イベント・会社説明会・インターンシップ・採用選考などのありとあらゆる求職者・候補者接点において「ネット上の評判情報よりも価値のある情報をいかに伝えていくか」が企業に問われています。それゆえに、採用選考における候補者接点を担当する面接官に口説きの役割が期待されています。
そこで本稿では、面接官の新たな役割である「口説きのスキル」を高めることに特化した面接官トレーニングについて解説します。
目次
1. 候補者を口説く上で知っておくべき面接知識
公正な採用選考を行うための知識
「公正な採用選考を行うことは、家族状況や生活環境といった、応募者の適性・能力とは関係ない事柄で採否を決定しないということ」。
これは厚生労働省が定める、公正な採用選考の基本的な考え方です。採用選考時に下記の質問をすることは不適切とされています。就職差別につながる恐れがあるからです。
<本人に責任のない事項の把握>
- 本籍
- 出生地に関すること
- 家族に関すること(職業、続柄、健康、病歴、地位、学歴、収入、資産など)
- 住宅状況に関すること(間取り、部屋数、住宅の種類、近郊の施設など)
- 生活環境・家庭環境などに関すること
<本来自由であるべき事項の把握>
- 宗教に関すること
- 支持政党に関すること
- 人生観、生活信条に関すること
- 尊敬する人物に関すること
- 思想に関すること
- 労働組合に関する情報(加入状況や活動歴など)、学生運動など社会運動に関すること
- 購読新聞・雑誌・愛読書などに関すること
今時、このような不適切な質問をする面接官は存在しないと思われるかもしれません。しかしながら、マイナビの調査では「45.9%の学生が不適切とされる質問を面接で聞かれたことがある」との結果が出ています。
<面接で聞かれたことがある不適切とされる質問>
- 兄弟姉妹や親族について:25.6%
- 両親や保護者の職業:22.7%
- 尊敬する人物:11.0%
- 子ともができても働き続けるつもりかどうか:7.0%
- 両親や保護者の出身地:5.6%
- 彼氏・彼女がいるか/結婚の予定があるか:5.0%
- 両親や保護者の収入や資産について:1.0%
- 政治や政党に関心があるか:0.8%
- 宗教を信じているかどうか:0.4%
- 上記のようなことを聞かれたことはない:54.1%
参考:2020年卒 マイナビ学生就職モニター調査 6月の活動状況
約半分の学生がこのような面接経験をしている状況を踏まえると、改めて自社の面接官に対して公正な採用選考を行うための知識を周知徹底することを推奨します。たった1回の不適切な質問で、これまでに積み上げてきた信用(志望度)を台無しにしてしまうことのないように。
面接官の態度に関する知識
面接官の態度(印象の良し悪し)は候補者にどのような影響を与えるのでしょうか。
Re就活の調査によると、面接時に志望度が下がってしまう瞬間として最も票を集めたのは「面接官の態度・話を聞く姿勢が悪かった時」でした。
<面接時に志望度が下がってしまう瞬間>
- 第二新卒(職歴あり)
面接官の態度・話を聞く姿勢が悪かった時:53.9%
圧迫面接を受けた時:37.0%
面接官の性格(口調、テンションなど)が合わなかった時:32.2%
プライベートな事柄など、不適切な質問を受けた時:18.3% - 既卒(職歴なし)面接官の態度・話を聞く姿勢が悪かった時:70.0%
圧迫面接を受けた時:36.5%
面接官の性格(口調、テンションなど)が合わなかった時:34.7%
プライベートな事柄など、不適切な質問を受けた時:28.2%
参考:面接で志望度が下がる瞬間は?|第二新卒・既卒の就職・転職アンケート結果
候補者を口説くことが難しい場面でも、候補者に誠実に向き合った面接をすることで、候補者の志望度を上げることができる可能性は十分にあります。
Web面接に関する知識
新型コロナウイルス感染症の影響で対面面接の代替手段としてWeb面接(オンライン面接)が急速に普及してきています。
Web面接には、候補者側の移動時間や交通費を節約できるメリットがあり、地方在住者の応募増加や面接キャンセルの減少などの効果をもたらすことが分かっています。その一方で、Web面接特有の画面越しのコミュニケーションでは人の魅力(その人が持つ熱量や人間性、雰囲気など)に頼った口説きが難しいとも言われています。
Web面接で候補者を口説くためには、後述する「志望度が上がる理屈」を押さえたコミュニケーションがより重要になってきます。
志望度が上がる理屈についての知識
候補者の志望度はどうすれば上がるのか?
それはシンプルに「候補者の志望度が上がる情報を伝えれば良い」ということに尽きます。ただ、そのためには候補者の望みを把握する必要があります。
候補者は自身の内に秘めた様々な価値観を元に、就職や転職における望みを抱きます。事業内容、企業理念、仕事内容、仕事の裁量・仕事進め方、働き方、組織制度、組織風土、キャリアパス、待遇、勤務地……具体的に何を望むかは、人それぞれです。
候補者が自身の望みに必ずしも自覚的でない中、候補者の潜在的な望みを具現化させた上で、その候補者にとって最も価値のある情報を候補者に伝わるような形で伝えるためには、高度なコミュニケーションスキルが面接官に要求されます。
2. 候補者を口説くための面接官トレーニング法
ここからは、面接に特化したクラウド型人材分析ツール「HRアナリスト」を活用しながら、候補者を口説くための面接官トレーニング法の解説を進めます。
模擬面接ではない、実際の面接の場を活用した面接官トレーニングです。
HRアナリストは面接に特化したクラウド型人材分析ツールです。候補者へのアンケートの依頼・回答・分析結果の閲覧などを一気通貫で実施でき、候補者の入社意欲を高める面接設計、コミュニケーション施策など、約17,000通りの戦術を元に出力された面接マニュアルを利用することで、質の高い面接を実現できます。
面接官トレーニング STEP1:アンケート
最初のステップは「アンケート」です。
会社説明会から初回面接までの間に、候補者にアンケートを実施します(アンケートはHRアナリストの機能として用意されているのでアンケートの設問設計は不要)。
アンケートの回答結果は自動でHRアナリストの人材分析にかけられます。
HRアナリストの人材分析は、適性検査のようなブラックボックスが多く不透明なものとは大きく違います。論文をベースとした学術的側面に加えて「この質問をこう答えているならこうなるだろう」という人事の勘や感覚を体系化しているため、分析根拠が明確です。
画像:HRアナリストの人材分析結果例(タイプ情報)
面接官トレーニング STEP2:面接マニュアルの読み込み
次のステップは「面接マニュアルの読み込み」です。
HRアナリストが人材分析結果として出力する面接マニュアルには、その候補者のタイプ情報(特徴や人柄・行動特性)が書かれているだけではなく、面接の場でどのような会話をするべきかについて、提供すべき情報・トピックの指示が書かれています。
面接官は、面接マニュアルに記載されている面談・面接の進め方、志望度を高めるトピック、事前質問例などの指示内容を読み込んでおくことで、面接での口説きがしやすくなります。
高度なコミュニケーションスキルを備えていない面接官であっても、面接マニュアルを活用することで、候補者の潜在的な望みを具現化させ、その候補者にとって最も価値のある情報を候補者に伝わるような形で伝えるためのコミュニケーションができるようになります。
画像:HRアナリストの指示内容例(事前質問例)
面接官トレーニング STEP3:面接と振り返り
最後のステップは「面接と振り返り」です。
面接中、面接官はHRアナリストの面接マニュアルの指示内容を活用しながら、候補者を口説くためのコミュニケーションを進めます。
面接では見極めと口説きを両立させる必要性がある中で、口説きに寄り過ぎて見極めが甘くなってしまう、または、見極めに捉われ過ぎて口説きが疎かになる状況に陥らないように、時間配分のバランスに注意を払う必要があります(HRアナリストでは面接マニュアルを活用することで口説くための時間を短縮化できる分、バランスを取りやすいと言えます)。
面接の振り返りでは、面接中の会話の内容(候補者にどんな情報をどう伝えのか、候補者はどんな反応を示したか)と、面接マニュアルに記載されている候補者のタイプ情報(特徴や人柄・行動特性)を照らし合わせながら、「もっとこういった説明をした方が口説きの面では効果的だったかもしれない」と、次の面接に向けた具体的な改善点を考えていきます。
3. まとめ
見極め(候補者を選ぶためのコミュニケーション)と口説き(候補者から選ばれるためのコミュニケーション)。今の時代の面接官には、これらの相反するコミュニケーションを両立させる役割が期待されています。
候補者を口説く上では「面接中に不適切な質問をしない」「面接中の態度や振る舞いに気を付ける」など、候補者の志望度を下げる行為をしないことが重要です。その上で、候補者の志望度を上げるためのコミュニケーションスキルを面接経験を通じて高めていくことが面接官には求められます。
その面接の場における面接官トレーニングツールとしてHRアナリストを活用いただけますと嬉しく思います。
・HRアナリストについてのお問い合わせはこちら
>> https://hr-analyst.com/contact/
著:池田信人 編:パーソルキャリア株式会社